ハジマリ

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 一人暮らしを甘く見て居た、と楸は思ったが、そんな暮らしも、一月もすれば慣れ、今ではすっかり家事と仕事の両立を楽しんで居る。  慣れ親しんだ小さな家の前に辿り着くと、傘を顎と肩で挟みながら、クリーム色のパンツのポケットから鍵を出した。  そして、鍵穴に差し込んで中へ入る。  玄関の電気を点けて、傘に付いた雫を払ってしまう。  左手側に木製の扉が有って、其処を潜ればリビングだ。  小さなテレビ、小さなテーブル、小さなソファ。  其れ等がこじんまりと配置されて居る。 「只今」  誰も居ないリビングに足を運び、食材を冷蔵庫に入れようとした瞬間、楸は固まった。 「や、御帰り」  声が、したのだ。  楸一人しか住んで居ない此の家から、もう一人の声が。 「え…何、誰…っ?」  紙袋を抱えた侭後退れば、背中に冷蔵庫のひんやりとした硬い感触。  楸の切羽詰まった様子とは裏腹に、声の主は暢気に彼の寝室から現れた。 「そんなに怖がらないで。僕は君の敵では無いよ」  現れたのは黒尽くめの少年だった。  全てが黒なのに、光を放って居る様に輝く緑色の瞳が綺麗で、楸は恐怖も忘れて思わず見入ってしまう。  
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