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息ができない。足が、ちぎれそうだ。
これだけ必死に走ったのは、いつぶりだろうか。部活での罰トレが懸かったマラソン以来だろうか。例える内容に乏しい自分の人生経験が嫌になる。いや、そんなことを考えている余裕はない。何せ、今は命が懸かっている。
「逃がすな!」
「生かして村から出すな!」
「殺さねば!」
「早く殺せ! 村から出てしまうぞ!」
後ろから、必死に地面を蹴る私めがけて、罵声が突き刺さる。数十人の村人が血走った目をして追い掛けてくる。人間の顔はここまで恐ろしく歪むものなのだろうか。
村人達は、鎌や鉈などを持っている。本来は農作業のために用いるであろうそれらは、私の体を抉る為に、彼らの手に握られている。体を耕されるだなんて御免だ。
村長の屋敷から逃げ出さなくても、いずれ殺されていたのだ。私は、自分の死期を少しでも遅くしたくて、あわよくば生きて村から出て、修学旅行ではぐれた皆に会いたくて逃げ出した。
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