しかえし【完】

2/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「コウー」 ごろん、と大好きな匂いのするベッドに転がりマーキングするようにごそごそ寝返りを打つ。 返事がかえってくることを期待していたわけじゃない。 コウの匂いに包まれてコウの名前を呼ぶ、その幸福感に浸っていたいだけだ。 「何、」 言外に今忙しい、という含みをもたせて返ってきた声はあさっての方向に響いた。 コウのからだはテレビに向けられ、おれからは丸まった猫背しか見えなかったから当然なんだけど。 こっち向けバカ、と声には出さず念を送ってみるが、カチカチとゲームのコントローラーを操作する音だけが無情に響く。 コウを夢中にさせているゲームがおれは好きじゃない。…格闘ゲームでは母さんに負けるし。 なによりおれからコウを取り上げてしまうから嫌い。 「…疲れた」 「あ、そ」 疲れたってば、聞いてんのかよ。 冷たい相づちに、さすがにムッと口を尖らせ非難の目でコウを見た。 まあね、いつものことなんだけどね。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!