小さい一歩

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「お疲れ様です…はぁ。」 「おいおい、テンション低いな。」 店に入るなりため息をついた僕に、零一さんは呆れた声をだす。 笑顔なんていきなり無理だ。 無茶なこと言ってくれた。 「だーかーらー、無表情に見つめるな!」 …恨み込めてたつもりだったのに。 「なんでもないです…。」 カウンターに入り、制服の上着を脱いでエプロンをつける。 裏は零一さんの物置になっていて足の踏み場もないからだ。 「珪ー、拗ねんなって。っつーかホントに拗ねてる?」 …わからないんだよね、やっぱ。 カランッ-… 無言でいるとお客さんが入ってきた。 「いらっしゃい。」 零一さんの視線の先には女の子。 その隣には佐伯くんが立っていた。 「あれ?葉月?」 僕に気付いた佐伯くんが、ビックリした顔をしている。 「…っ、いらっしゃいませ。」 普段だったらもっと普通に言えたかもしれないのに、 朝のこともあってぎこちない感じになってしまった。 あー、もう、 なんでこんななんだろう。 「そこら辺座っていいからね。」 僕のことを見つめっぱなしで立っている佐伯くんに、 零一さんが席をすすめる。 「あっ、はい。」 佐伯くんは彼女さんと入り口近くの席に座った。 「アイツ、珪の学校の奴?」 制服でわかったのだろう、 零一さんが小さい声で聞いてくる。 「同じクラスです。」 僕も小さい声で囁き返すと、 興味深そうに佐伯くんを眺めた。 とりあえず、注文を聞きに行かないと。 水の入ったグラスを持って、 二人の座る席に向かう。 …なにか言ったほうがいいのかな? 『彼女?可愛いね。』 『ここら辺によく来るの?』 『僕、ココでバイトしてるんだ。』 二人の前にそっとグラスをおく。 「……ご注文は?」 …所詮、僕なんてこんなもんだ。
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