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その向こうでは、夫の笑顔があった。
息子の大学受験を控え、家族の会話も無くなっていたこの頃。
親子も夫婦も形ばかりの生活に、彼女は疲れ果てていた。
「そうだったわね!」
三人でボールに目を奪われながら、笑顔で包まれた日々も確かにあったのだ。
「今夜は亭主と飲もうかな」
彼女に穏やかなあの日が戻ってきた。
「ありがとね」
再びペダルを踏みしめる。
黄ばんだボールは、彼女の手を離れ、放物線を描いて、夕闇に消えて行った……。
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