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「やれやれ」
老人は僅かに夏の残像が残る砂浜を、重い足を引き摺る様に歩いていた。
広くて狭い、一人きりの家に戻る為に。
<そのボール、拾ってくれませんか?>
老人は振り返る。
誰も居ない。
足元に黄ばんだボールがある以外は、いつもの静かな浜辺であった。
ゆっくり腰を落とし、黄ばんだボールを拾い上げる。
「どうしたんやろうなぁ」
確かに聞こえた声の主を、老人は再び探してみる。
鴟の鳴き声と、遥か彼方の船の汽笛だけが、彼を包んでいた。
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