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「長いこと、話とらんからなぁ」
誰との会話もなく、色褪せた写真を眺めては、懐かしむだけの毎日が、老人から生きる糧すら奪っていた。
皺の深い手のひらに乗った、黄ばんだボールを眺めてみる。
三人の息子たちに我先にと、キャッチボールをせがまれた日々がそこにあった。
「電話してみるか!」
連絡すら取ろうとしなかった息子たちへ、父親としての威厳が再び芽生えてくる。
「ありがとよ」
老人は空を見上げ、今度は小走りに家路を急ぎ始めた。
黄ばんだボールは、老人の手を離れ、放物線を描いて、夕闇に消えて行った……。
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