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「なにも……ないよ?」
「……え?」
「ただ、ここの景色を教えたかっただけ。ちょっとした卒業祝いだよ」
陸斗は微笑みながらあたしにそう言えば、その場に座り、黒い空を見上げる。
「……そっか」
なにかが引っかかるが、陸斗がそう言うのだからそうだろう。
そう思うしかなかった。
陸斗と同じように座り、上を見上げる。
「………広いね」
思わず口からでた自然な言葉。
「うん……」
陸斗も頷き、返してくれた。
そしてまた沈黙が流れる。
少し冷たい風が体にあたるが、それは気にならなかった。
「……ねぇ、弥姉」
と、その時だった。
陸斗がこちらに目を向け、あたしに声をかけたのだ。
「ん?」
なにかと思い、首を傾げて彼の方を見る。
「………弥姉は、どんなに自分にとって悲しくて残酷でも……それが好きな人のためだったら、その道を選ぶ?」
陸斗の突然の問いかけに驚く。
「え?」
なんでそんなこと聞くの?
そう聞きたかったが、彼の真剣な表情を見るとそれが聞けなかった。
「その人の未来のために、自分の未来のために……お互いがその時悲しんでも、それが相手の未来のためなら……」
そこまで言って陸斗は俯いてしまった。
「……うまく、言えないけど……」
そのまま、陸斗は言い放った。
悲しそうな顔をして……。
でも聞いていてわかったこと、
陸斗には誰か好きな人がいること。
その好きな人のために、悩んでいるの……?
「あたし……なら、」
でもなんであたしに聞くの?
「好きな人のためなら最善の選択を選ぶよ……」
あたしが陸斗を好きなのを、陸斗は知ってるよね……?
その陸斗の質問がショックでさっきから胸がズキズキと痛む……。
恋の相談……か。
「そっか、ありがとう」
俯いていた顔を少しあげ、陸斗は礼を言う。
でも、陸斗に好きな人ができたなら応援したい。
自分と結ばれることはないのだから……。
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