・明らかになる日

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「じゃあ……これでいいんだよね」 「え……?」 陸斗は立ち上がり、ふぅーと、息をはいた。 「なんでもない。風邪ひいちゃうから、戻ろ?」 そう言って陸斗はここに来るために入ったドアの方へ向かって行く。 あたしはさっきの言葉が気になって仕方がなかった。 そして、ふと嫌なことが頭を過ぎった。 「陸斗……!」 前を歩いている彼を呼び止め、近付く。 「どこにも、行かないよね……?」 なぜか知らないけど、そんな嫌な予感がしたんだ。 そんな気がして……。 すると陸斗は驚いた顔をあたしに見せた。 でもそれはほんの一瞬で、すぐに笑った顔を見せた。 「……なんで?」 ……そう、悲しそうな表情も混ぜながら。 ただそれだけ。 その一言だけ。 なのに…… 「……ごめん、なんでもない」 その答えを聞く勇気が今のあたしにはなかった。 怖かった。 周りがシーンとして、暗い空気に呑まれたせいもあるかもしれない。 そう自分で言い聞かせた。 この時は…… 「……んじゃ、行こっか」 また前を向き、歩き出す彼の背中を見つめながら、不安を抱いていた。 今思えば、陸斗は『なんで?』と聞いただけで『行かない』とは一言も言わなかった。 これから起こることのヒントだったのかもしれない。 それと、あたしに聞いた質問。 あれも無意味なものではなかった。 これから起こる……彼がしようとしていることを知らせるヒントの一つだった。 でも気付いた時には遅く……。 答えがわかってからどこにヒントがあったのかそこでやっと気付くんだ。 ―――…その後はお互い無言で家までの道のりを歩いた。 不安を一刻も消しさりたくてご飯も食べずに寝た。 朝起きると陸斗はいなかった。 荷物も、彼に関する物はほとんどなくなっていた。 でも不思議と涙はでなかった。 彼が残したメモを見つめながら、 あぁ……あたし、いつの間にか覚悟はしていたんだ。 そう実感したんだ。 彼の残したメモに目を通し、これからお母さんが話してくれる真実で、 全てが明らかになった。
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