・胸の中に全てを

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そしてお母さんは陸斗をひきとった。 今思えば、いつの間にか陸斗がいた、という感じだ。 その事故の時に乗っていたのは陸斗のお父さん、あたし、そしてあたしのお父さんだった。 事故の原因は相手のよそ見運転らしく、運転手だった陸斗のお父さん、そしてあたしをかばったお父さんは亡くなってしまった。 今までずっとお父さんがいない理由は病気だっ、て言われてたのに……。 まさか、自分の記憶が抜けていたとは思いもしなかった。 あの夢はこのことだったのか。 聞いた時は衝撃的だったし、どうしようもなく不安にもなった。 でも年月が過ぎるごとにそのことはあまり思いださなくなった。 それは今も、だ。 最初は陸斗のことばかり考えていて、 いつか会いにきてくれる、絶対また家に戻ってくる、なーんて…… 淡い期待を抱いていたけど、見事に打ち砕かれた。 来ることもなかったし、連絡さえなかった。 このままで終わらせたくない、って思って、高校が始まってから正門前で一回だけ待ちぶせしたこともあった。 陸斗はいっこうに来なくて、しばらくしてあたしのことを知っていた見知らぬ男子が声をかけてきた。 ちょっとした挨拶をして、陸斗はどこにいるのか、と聴こうとした瞬間……… 『あいつ、彼女できましたよね』 と、うちらの間にあった事情も知らない男子がサラッとそう言い放った。 それが驚きとショックでしばらく口が開けなかった。 聞けば、その子はとても明るく元気な子でよく陸斗と一緒にいるらしい。 名前も聞いたのだが、もう今では忘れてしまった。 その男子達が帰ったあともあたしはしばらく呆然と立っていた。 屋上で話していたあれは…… あたしが思った陸斗の好きな子ってその子のことだったんだ。 受け入れたくない真実を無理矢理頭にいれて解釈させ、自分も変わらなきゃ、と思い泣きながら帰った。 それ以来、彼と偶然でも会うことはなく、高校にも行かなくなった。 そして、現在 もう彼のことも過去のことも頭の片隅にはなくなり、充実した日々を送っていた。
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