・胸の中に全てを

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「……弥?」 夏希が心配そうにあたしの顔を覗き込み、首を傾げる。 「なに?」 「不安なの?そんな顔してるよ」 夏希から言われた言葉に少し驚き、頬に両手をあてる。 そんな顔してたのかなぁ……。 「あ、大丈夫よ」 なにかひらめいたように夏希がポンっとあたしの肩に手をのせた。 なにが大丈夫なのか、と思い首を傾げてみせる。 そうすれば、夏希は笑顔で口を開いた。 「まだ愛しの彼は来てないけどもうちょっとしたらちゃんと来るから!」 「………はっ!」 「愛されてるくせに!うらやましっ!!」 ニヤニヤと笑いながら茶化す夏希。 その意味がわかるあたしは顔を赤くして反論した。 「なっ……なにいってんの!そんなんじゃないってわかってるくせに!!」 「えー…?でもあついアタックよね、彼。一途だし……。そろそろ素直になったら?」 口の前に人さし指をあて、ウィンクする。 その言動と行動にうっとしながらも首を横に振った。 「ほんっと、素直じゃない……っと、噂をすれば……」 ニヤニヤしながら夏希は指をさす。 そっちの方向を見れば、さっき噂していた奴が手を振りながらこちらへと近寄ってきた。 「おっす!おまえら来るのはえーよな」 二カッと笑いながら来たのはあたしより背の高い茶色の髪の毛の男。 「今ちょうどあんたの話してたのよ、涼平」 涼平と呼ばれた男はポリポリと頭をかきながら首を傾げた。 ―――…鮎川涼平 大学一年になったばかりの日、突然声をかけてきたのだ。 『名前なんていうの?俺鮎川涼平。よかったら友達になってよ』 ………と。 同じ学科だし、せっかく声をかけてくれたのだから、と思い承諾した。 それから数日たったある日、告白されたのだ。 その時は陸斗のことでまだ悩んでたし、好き……という気持ちがあったから断ったのだが、 『俺、諦めないから』 と、宣言されひっつき虫のように来るわ、何度も愛の言葉を囁かれるわ……で、しつこく思っていた。 ………が、今ではそれが涼平らしいなぁ、と楽しむようになってきた。
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