・嘘の強がり

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―――辛かった。 その言葉を聞きたくなかった。 笑顔を見たくなかった。 笑ってほしくなかった。 動揺して欲しかった。 悲しそうな顔を見たかった。 断れって言ってほしかった。 ―――しかし、そんな望みが伝わるはずもなく。 …だから―――。 「…………あたし、寿と付き合う。」 弥の声が微かに震える。 今の弥には精一杯の言葉だった。 そんな弥の言葉を聞いた守は目を見開き、弥に近付く。 「………おまえ、本当にそれでいいのかよ?」 弥は俯いたまま、悲しそうな笑顔を浮かべる。 「…寿を…信じるんだ。寿なら、忘れさせてくれるって……。」 ――――ズキッ 痛い……。 胸が痛い。 こんな選択はしたくないんだ。 だけど持ってはいけない感情を忘れるには、これしかないんだ。 血の繋りを持つ人を愛してはいけないから。 血の繋りのない寿を頼るしか、忘れらないと思うから。 「………おい、杉野。」 「えっ?」 弥は無理に笑いながらも守の方に顔をむける。 その時、温かい何かが頬をつたる。 それは、 ―――――たった一筋の涙だった。 弥は慌てて、手で涙をごしごし強く拭く。 「―――あのな、杉野。俺が思うには―…。」 「―――…っ!ごめ…守、あと片付けとかよろしく!」 「あっ、おい!杉野――…!」 弥はイスから立ち上がり、無我夢中で自分の泊まる部屋へと走り出す。 涙が溢れだしそうで必死に堪える。 自分が今、何をしたいかわからない。 なぜあたしは走っているんだろうか。 「……あっ、弥、そんなに走ってどうし―――…えっ?弥!?」 話しかける未来を無視し、弥はスピードを遅くすることなく走る。 色んな人達の視線がこちらに向けられる。 しかし、今はそんなことを気にしてはいられないのだ。 ただ無我夢中に走る。 それだけだった。
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