・嘘の強がり

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―――――バタン! 部屋のドアを思いっきり力をつけて閉める。 予想通りだ。 誰もいない。 部屋は暗く、どうやらみんな風呂や休憩所に遊びにいっているようだ。 「ハァハァ…ハァ。」 久々に全速力で走った。 弥は疲れて、呼吸を整えるようにその場に座る。 酸欠になりそうだ。 「……ハァ…ははっ、ははは…。」 なぜか笑いが込み上げる。 何をやっているんだろうか、自分。 無我夢中に走って、部屋に入って、何か意味でもあったのだろうか。 ――いや、意味はあった。 誰もいないシーンとしているこの空間が今の自分にとっては心地よい。 この空間を得るために走ったんだ。 ―――泣きたくてきたんじゃない。 「――――…っ。」 うん、わかっている。 ――――嘘の強がり。 自分は弱いって、だから一人でも無理に強がっているって。 本音を言えば、きっと涙が溢れる。 ――――――…。 会いたい。 さっき会ったばかりなのに。 笑いたい。 寿とは付き合わないって、言いたい。 安心したい。 陸斗の言ったことも嘘だって言ってほしい。 苦しい。 でも今となってはどうにもならないから―――。 ―――…悲しい。 「うっ…う…ヒクッ……くっ…。」 弥の目から涙が溢れでる。 声がでないように必死に口を押さえ、堪える。 思い出すのは陸斗のことばかりで、こんなことで泣いてしまう自分が恥ずかしかった。 そして実感する。 ―――なぜ恋をすることがこんなに苦しいのだろうか。 なぜ本気で弟に恋をしてしまったのだろう。 なぜ忘れられないのだろう。 なぜ自分はこんなに弱いんだろう。 「―――ヒクッ…助け…て誰か――…。」 涙が止まらない。 なにも考えたくないのに……。 誰でもいい。 誰でもいいから――…。 誰でもいいから…今あるこの現実から抜け出させて―――…。
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