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「今日は暖かいねぇ…」
おや?
私の姿は見えないはずなのに、じっと見つめる
少女が立っている
「まさかね…」
じっと見ているねぇ…
桜の木を見ているのかも知れない
ゆっくり歩いて場所を
少し移動した
見ているのはどうやら
私のようだよ
「あんたに私が見えるのかい?」
少女は少し驚いた顔をして頷いた
参ったね
まさか、人間に私の姿が見えるとは…
まぁ、この少女だけかも知れないけどさ
「あんた、名前は?」
少し後退りしながら
私を見つめる
「なんだい、口があるのに話せないのかい?」
「お兄ちゃんの名前は?」
「名前?そんなのありゃしないよ」
その言葉を聞いて、
小さな声で言った
「てまり…」
「てまり…いい名じゃないか」
「嫌い…てまりはてまりが嫌い」
何言ってるんだいこの娘は?
「てまりはてまりが嫌い?」
「うん…」
「何故だい?」
「だって…ホントの名前じゃないもの」
ああ…そういう事かい
廓に売られた訳だね
「てまりは偉いねぇ」
「えっ?」
「そんな小さな体で、
家族を助けてあげたんだろ?」
「わからない」
「今はわからなくても、いずれわかるさ」
「帰りたいよ…おっかあに逢いたいよ…グスッ」
可哀相に…
まだまだ親に甘えたい
年頃なのに
「泣くのはおよし…」
優しく抱きしめて頭を撫でながら言った
「無駄に涙を流すんじゃないよ…次に涙を流す時はここを出る時にしておきな」
「出られるの?帰れるの?」
透き通った瞳で見つめる
「てまり次第さ」
「わからないよ」
「まずはその名前を好きにおなり」
「てまりを?」
「ああ…そうだよ」
今から辛い事が待っているてまりに、
今だけ夢を見せてあげるよ
てまりが笑顔になるように…
綺麗な桜吹雪で包んで
あげよう
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