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金魚売りの声がする
あの日以来、てまりは
パッタリと来なくなった
「寂しいじゃないか…」
泣いてやしないだろうか
病気になってやしないだろうか
毎日あの道を見つめながら、息を切らして走って来るてまりを思い出していた
「雨…」
雨は好きさ
だけど花びらが散ってしまうよ
「おや?あの姿は…」
てまり…
雨に打たれながら
フラフラと歩いていた
「てまり…どうしたんだい?」
「お兄ちゃん…」
こんなに痩せてしまって…
「どうした?」
「もう…辛いよ」
「てまり…」
「ごめんなさい…お兄ちゃんの言い付けをやぶってしまったの」
「好きな人がいるんだね?」
「うん…だけど…」
「しょうがない子だよ」
「ごめんなさい」
しかし、これが人間なのかも知れないねぇ
人を好きになる気持ちを
止める事は、誰にも出来やしないんだ
本来の私が目を覚ます
「お前の悲しむ顔は見たくない」
「お兄ちゃん…」
「お前は大きな鳥籠の中の小さな鳥…自由に空を飛びたかったら人を好きになってはいけない」
「うん」
「辛いか?」
「うん」
「自由に…してやろうか?」
「えっ?」
「明日、その人と二人でここにおいで」
「お兄ちゃん…」
「本当に辛いなら…」
「うんっ」
可愛いてまり
鳥籠の中のお前も、
鉢の中の金魚と同じ…
綺麗に着飾り、ヒラヒラ泳ぐ
自由などはありはしない
だから私がお前を自由に
してあげるよ
永遠にね…
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