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ひと時の静寂が訪れた。
洗いたての髪から漂う、心地よい甘さの中に刺激的な酸味を隠す早熟の果実のようなシャンプーの残り香に、すっかり僕は酔いしれていたのだ。
ところがその誘惑の果実は、穏やかだった僕の心を次第に揺れ動かしていった。
眠りに落ちてほんのり暖かくなっていたはずだった彼女の頬は、冷や汗の出る間もなく急に冷たくなった僕の手には多少熱くも感じた。
起こしてしまわないようにそっと長い髪をかき上げると、その奥には白く小さな顔があった。
しかしその寝顔はというと、全く覚えていない。
覚えているのは、上質のシルクのようにきめ細かく柔らかい唇の感触と心地よい温もり、痺れる程に全身を駆け抜ける自らの胸の高鳴りだけだった。
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