4人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝。一人の男が、横たわるヌリカベの前に胡坐をかいた。雨を吸った地面が、音を鳴らす。
ヌリカベは、動かずに男を見据えた。
その人間は、笠を被り、汚らしい道着を身に付け、一本の枝を持っていた。
男はヌリカベと、目を合わせない。
そのまま、太陽が頭上に達するまで、男は動かなかった。
やがて男は、袖で顔面の汗を拭い、一つ溜め息を吐いた。懐から巾着袋を取り出し、言葉を発する。
人間は何か延々と語っていたようだが、妖怪は全く口を出さなかった。
男は巾着から、煮た豆のような物を摘んで食べる。更に懐から竹筒を出し、水を飲む。
しかし、男は一瞬たりとも、右手から枝を離さなかった。
指で器用に支え、ちろちろとヌリカベの興味を惹こうとしている。
しかしヌリカベは、動かなかった。
最初のコメントを投稿しよう!