ヌリカベの牙

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   翌朝、男はヌリカベの所へまたやってきた。依然として、ヌリカベは寝転がっている。 「お前は、何かを傷付けるのが恐いのかい。それとも……お前は、傷付け方を知らないのかい」  男の表情は、曇っていた。  男はそれ以上言わずに、去っていった。  ヌリカベはもそっと体を起こし、岩へ腰かけた。森では夕闇が迫っている。  ヌリカベは、自分の胴を撫で回してみた。ない。どこを触ろうと、手に唇が当たらない。  ヌリカベは、目線を落とした。暗くて分かりづらいが、あった。この前、男は豆を落としていった。  屈んで、それを摘み取る。  男は、豆を食べていた。  ヌリカベには、その意味が分からなかった。  ヌリカベの横を、野兎が跳ねた。そして、背を向ける。  ヌリカベは、兎の首を握ってみた。ちぎれてしまった。  ヌリカベには、訳が分からなかった。  傷付け方を知らないのではなく、ヌリカベは……。  ヌリカベは、死んだ兎を朝まで見続けていた。  妖怪は、動かなくなった兎を感じ、首を傾げることしかできなかった。
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