~終章~ある日の昼下がり

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彼は怪訝そうな顔をしながら私の方を見る。 「どうしたんだよ、急に」 「いいから。答えて」 私の声に、不承不承、と言った感じでぽつりと漏らす。 「いねえ、よ。もしいるなら、お前はそんな体になってなかっただろうに」 そうして、唇を強くかんだ秀司。 でも、 「私は、いると思うな」 「あ?」 「ねえ、あれを見て」 私の目の前で、先ほどの少年がわんわん大声を上げて泣いている。 それをじっとみつめる、一人の男。 やがて少年は涙を強引に手の甲でぬぐうと、父親なのだろう。その男に向かって走っていく。それに父親は、嬉しそうにその子の頭をなでた。 「……あれなんじゃないかな」 「何がだ?」 「神様よ。 ……きっと神様っていうのはね、子供を見守っている父親みたいなものなんじゃないかな。私たちが苦しんでたり、悲しんでたりしてても、いつかは立ち上がってくれる。また前を向いて走り出してくれるって信じて、見守っているのよ」 「……お前の体がそんな風でも、そんなこと言うのか」 「それでも、よ」 砂遊びに飽きたのだろう。 二人の子供たちが私の元へ駆けてくる。 愛しい、愛しい、私のバトンを受け取った次の命の苗。 「かーさん、のどかわいた」 「あ、あたしもあたしも!」 妹の名前は命花。 かわいらしいくりくりした目をした女の子。いつも活発にうろちょろする慌しい子だ。 まったく、誰に似たんだか。 お兄ちゃんの名前は優也。 少しおどおどした、たれ目気味の優しい男の子。 この子には、今でも忘れられないあの子の名前をつけた。私がこの名前がいいって秀司に言ったら、一言、 『いいんじゃないか?』 そう言って微笑んでくれた。 私は三歳になる双子の子らに、紙コップを手渡しお茶を注いでやる。そうしながら、先ほどの答えの続きを口にする。 「それでも、私がここにいるのだって、この子達が生まれたのだって誰かが選んできたからよ。神様が決めたからじゃないもの。そうでしょ? あなた」 私は茶目っ気たっぷりにそう言った。 「……ああ、そうだな。その通りだ」
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