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――今でもよく、あの頃のことを夢に見る。
空に出ていた太陽。それが役目を終え、ゆっくりと西の空、山々の間に隠れるようにして沈んでいく。
そうすれば光の世界は終わりを告げ、暗く恐ろしい闇に包まれる。俺はずっとそれが嫌いだった。
だって、その見通せない闇の中には、何か得たいの知れない怪物が潜んでいる気がして。
怯える自分を、頭から一のみにしようと待ち構えてるようで。
でも。そんな不安で一杯の時に声は届くのだ。
「まーたこんなとこで泣いてんのかい」
すっと、大きな影が俺の上に落ちる。
茜色の空の下、
泣きじゃくる俺にかけられる確かな声。俺はそっと顔を上げる。
「だって、だって……もうすぐ、まっ暗になっちゃう」
「しゅー坊は夜がこわいん?」
俺がうなずくと、ばあちゃんはしわを大きく動かし笑顔をつくる。
「ばーがついとる。なーんも怖いことはないんよ」
そう言って差し出される、しわくちゃの、大きな手。ごつごつしたばあちゃんの手には、不思議な力があったんだ。
まるで、魔法のような。
そのまま俺の右手を力強く握る
。硬くて節くれだった指の感触。
「いた、いよ……」
そう小さくつぶやくと、おぉ、ごめんねぇと力を緩める。
でも、力強いばあちゃんの手を握るうちに……
いつの間にか、夜が怖くなくなっていたんだ。
「帰ろかな。帰ろかな。天神さまの通り道……」
ばあちゃんの声が耳に心地よい。その余韻が、いつまでも俺のなかで響いていた――
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