卵焼き

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急いで手提げ袋の中を漁ったよ。奥に携帯の箱が入ってたよ。テレビを見れるし録画出来るし、なんかスゲー光るし…… ああ、俺が雑誌に丸つけてた服だ。デニムもスゲーいいやつじゃん……。全部で五万はかかってじゃん…… なあ、何これ? なんで封筒に十万も入ってんの?どっから出したんだ?あんた、これからどうやって過ごすんだよ…… 弁当箱を開ける。みんな俺が好きなおかずだ。栄養バランスには物凄くうるさかったのに…… 卵焼き以外、全部揚げ物じゃんかよ…… 俺は卵焼きに箸を伸ばした。目頭が熱くなる。溢れでる雫を止める気などなく、俺は濃い味つけの卵焼きを 「ゔま゙い゙……」 って言いながら食った。 夜に聞こえるミシンの音が嫌いでした。煩くて貧乏くさくて…… ボロボロの自転車に乗ってパート先に出掛けるあんたの背中が大嫌いでした…… 荒れ放題の貧乏くさいあんたの手が大嫌いでした…… でも今は……大好きです。 「バガ野郎……」 自分にそう言ったんだ。 母ちゃん? なんでこの袋渡した?今までスゲー迷惑かけたじゃん。糞生意気で、こんな俺をなんで育ててくれたの? 俺、最後にあんたに糞ババアって言ったんだよ…… 餓鬼じゃない?糞餓鬼だよ…… 俺は震える指で、真新しい黒い携帯に数字を入力していった。
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