第一章

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「――殿、池田恒興討ち取ってございます。」 「うむ、大儀であった。あれ程の忠義者もなかなか居るまい、手厚く葬ってやれ。」 「ははっ。」 討ち取った敵将に対する礼儀を忘れない。これも今までの龍興には無かった事の一つである。 報告をした兵も変わり様に感銘を受けていた。 「――よし、再び清洲へ向かうぞ!」 素早く整列を終えた斎藤勢は早速進軍を開始した。 この池田恒興討死の報は必ず織田家にも入るはず。となれば、織田家中には少なからず斎藤家へ寝返る者、織田を見限る者が出て来るはずである。 というのも、織田家には信長の父である織田信秀から伝わる家訓があった。 『敵を領内に入れてはならない。領内に入れば士気が落ち、負けても勝っても被害を被ってしまう。』 というものである。 これに従って信長は今川義元を尾張、三河国境近くの桶狭間で討っている。 なるべく敵の軍勢を領内に入れない様に心掛けているのだ。 だが今回はズカズカと足を踏み入れられ、さらに重臣も討ち取られている。家臣達の心離れは避けられなかった。
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