序章

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「ふぅむ……、酒が旨いのう。ほれ、そちも飲むが良い。」 美濃、井ノ口の町にある商家に、今日も龍興が現れて酒を呷っていた。商家の主人は儲かるからと気にしていないが、龍興の家臣は嫌な顔。 それもそのはず。彼の名将の孫であり、美濃一国の主である龍興が城下で酒を飲み、女を連れて、夜な夜な遊び更けているのだ。 隣国である尾張には、今川義元を桶狭間にて打破り、まさに勢い付いている織田家が、今にも美濃へ侵攻せんと企てているのだ。 心配でないはずもなかった。 「殿、そろそろ城に戻り、政務をなされてはいかがかと。」 こう言ったのは、現在は龍興の政務を補佐するために北方城より、稲葉山城に参城していた、安藤守就であった。 守就が必死に諫めようとするのだが、龍興は全く意にも介さず、ただただ酒を呷るのであった。 「――殿!お目を覚ましなされ!そんなお姿、亡きお父上が見たら何とおっしゃられるか!」 と守就が言うと、さすがの龍興もこれには少々キレた様子で、いきなり立ち上がり、酒の入った徳利を地面に投げて叩き割る。 そして乱暴な口調で言った。 「――う、うるさい!そちらは何かにつけて、父上、父上と!わしと父上を一々比較するでない! ――それに、政務ならそちが城に帰って勝手に行うがよかろう! はよ、わしの前から消え去れ!」  
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