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龍興が井ノ口の商家を出た頃、稲葉山城ではとんでもない事件が発生していた。
“稲葉山城乗っ取り”――
安藤守就の娘婿である竹中半兵衛が、たった十六人の手勢で稲葉山城の本丸を占拠してしまったのだ。その電光石火の手際に、城兵は手も足も出なかったという。
無論、その報はすぐに龍興の耳にも入った。そしてそれを聞いた龍興は、一気に震え上がった。
――殺される。
自分を殺して新しい当主を立てる。龍興は完全にそう思い込み、全身をがたがたと震わせているのだ。
慌てふためく龍興。どうにもならないこの状況に、半ば諦めかけていた時、あることを思い付く。
それは『逃亡』である。
この戦国乱世に於いて、家臣からの下剋上によって国外に逃亡する者も少なからずいた。だが、龍興は誰を頼ればいいのか咄嗟には思い付かない。
そこで龍興が取った行動が『国内逃亡』である。自分が信頼している家臣のもとに落ち延び、それが駄目だったら諦めようという半ば匙を投げた考えだった。
そして何とか命からがら、鵜飼山城へ逃れる事に成功した龍興。そこの城主には温かく迎えられ、難を逃れることに成功した。
この何とも間抜けで格好のつかない逃避行は、これから六か月にも渡って続くことになるのだ。
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