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右近にはお礼を言わなければならない。
あの日、節分に、お寺へ誘ってくれたことを。
右近は、急な仕事で出掛けたお母さんの変わりに、妹の聖羅ちゃんをお寺の節分会の豆まきに連れて行かなければならなくなったのだ。
「茜、頼むから一緒に行ってくれよ。親子連ればっかりでさ、若い男なんていねえんだよ。」
って言われて、
「いいよ」
って即答したのは、幼稚園に行っている聖羅ちゃんがなついていてくれているのを、私が妹みたいに思っているからだ。
ほんとは、部活でくたくただったのに。
でも、お寺の本堂の座布団の上に座り、節分の法要が始まるのをいまかいまかと待ちながら、入り口の障子戸の辺りのごちゃごちゃした混雑のほうに振り向きざま、私の目ははっきりと先輩の姿だけをとらえていた。
どうして先輩がこんなところにいるんだろう!
夢を見ているのかとマジに思った。
長身に真っ白なセーターを身に着けて現れた先輩は、いつもより大人っぽくて、学校で見るブレザーの先輩とはまったく違って見えて、
私は体の奥から何か熱いものがブワ~~っと脳天に向かって走ったようになるのを抑えることができなかった。
か、かっこいいよ、先輩・・・。
「お姉ちゃん?どうしたの?」
聖羅ちゃんの声に、右近が私を見、それから私の視線の先に目をやる。
「あれ?生徒会長じゃん。なんで東城先輩がここにいるんだ?」
私は慌てて、
「ほんとだね。この地域の人じゃないのにね。」
と言いながら、正面の地蔵菩薩の方に視線を移した。
私の片思いを右近に知られたくない。こいつとは家が近所なせいで小中と同じ学校に通った腐れ縁だけど、まさか高校まで一緒に通うことになるとは思っていなかった。私の何もかもを知っているつもりの右近(実際そうなのがまたしゃくにさわるのだが)に、これだけは知られたくなかったのだ。
絶対動揺を見せてはいけないと心に言い聞かせるようにして、私は地蔵菩薩をジイイ~ッとみつめた。
「お~い。先輩~!こっちこっち!」
エ?
右近のやつ、私が平静を保とうとして必死になっているのに、何てことだ、先輩に手を振っている。まるでこっちに来いとでもいうように。
先輩と地蔵菩薩に変わるがわる視線をさまよわせながら泡を食っている私の前に、先輩の姿が近づいてくる。
「あれ?家、この辺?」
ついに本人が目の前に。
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