鬼は外

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「地元ッス。先輩なんでこんなとこにいるんですか?」 「この寺、親戚の家なんだよ。節分には小さい頃から家族でよく手伝いに来てたんだけど、如月に会ったことあるっけ?」 「いや、自分、この寺、あんまり関係ないんで。去年町内報見て、妹を連れて初めてきたんです。」 「へえ~、妹?」 「聖羅です。はじめまして。お兄ちゃんのお友達ですか?」 「聖羅、この人はな、東城多聞さん。テニス部の先輩で、生徒会長さんなんだよ。」 思いがけない会話がすぐ目の前で繰り広げられている。 いつも、そっと、遠くから、生徒会長として堂々と壇上に立つ先輩を、テニスコートを夢中で走り回っている先輩を、図書室で真剣に資料に目を走らせている先輩を、友達とふざけて笑い合っているこぼれるような笑顔の先輩を、 背景の中に大切にとらえていたあの先輩の姿が、 今、手を伸ばせば届きそうなすぐそこにあるなんて。 「彼女、一緒?」 先輩は、私のことを右近に聞いている。 「はい。こいつ、同じ学校ですよ。」 「知ってるよ。ソフト部だよね。2年生なのにレギュラーなんだよね。」 私を知っているなんて! 驚いた! 「ソフト部、すごいよね。今度中部日本大会に進出だもんね。すごく練習がんばってるし。あ、自分、知ってると思うけど、3年の東城多聞です。」 人間って、どこから声を出すのか忘れた。 でも、何とか自分の声が発せられてるのが聞こえた。 「はい、先輩のことは、もちろん知ってます。生徒会長さんですから・・・。私、新通茜です。」 「へ~、茜ちゃんか。よろしくね。」 右近に振り向いて言った。 「如月、つきあってんの?」 右近と私がハモった。 「ぜんっぜんです!」 「とんでもないです。こんなやつ。」 「近所だけっスから。腐れ縁っスから。」 「フフフ。そっか。 あ、そろそろ法要が始まるみたいだ。おじたちが来たから。」 突然居住まいを正した先輩に慌てて私たちも背筋を伸ばした。先輩は、右近と聖羅ちゃんをはさんで坐った私の左隣の座布団に腰を下ろしていた。
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