鬼は外

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堂内の空気がピリッと緊張する。ふざけあっていた子どもたちも息をひそめた。 年配の住職さんと、もう一人は、たおやかな僧衣姿から、どうやら尼僧さんらしかった。 「従姉なんだよ。」 と先輩が尼僧さんをそっと指差した。 それからいくつかお経が読み上げられ、何度か手を合わせるよう指示があり、法要は20分ぐらい続いただろうか。 先輩は、ずっとずっと正座したまま。背中をりんと伸ばし、正面を見据えている。 つられて私も背中を伸ばし、同じように正座していると、なんだかカップルになったような気がした。 ていうか、前にもこんなことがあったような、しっくりした不思議な感じ。 正面を見据えている先輩と、寄り添う私と、 座布団の上で座っているのは私たち二人だけで、 私たちはあとの人々に祝福されている最中のような・・・。 もちろん、 そんなことを考えている私はばかばかしい。 ばかばかしいんだけれど、何だか妙に落ち着くようでもあり・・・。 お経が始まると、先輩の低い声が副住職の尼僧さんのそれと合体して、心地よいハーモニーをかなではじめた。 先輩は何を見るでもなく、お経を暗記しているらしい。 お経のことはさっぱりわからないけれど、私は左耳と全身の毛穴を使って、先輩の声を味わった。 低く、抑えた、先輩の大人の男の人の声を。 先輩にあこがれる学校の女子の誰も知らない、もう一つの先輩の声を。 「さあ、今度は元気よくいきますぞ~~!」 おじいさんの住職さんが、法要の厳粛さとはまったく正反対の、七福神みたいにめでたい笑顔ではじめの音頭をとった。 大人しくしていた子どもたちが一斉におしゃべりしながら立ち上がり、ムードが一変して、いよいよ豆まきの始まりのようだ。 「自分、手伝いがあるんで・・・。」 とこちらに目で合図して先輩は腰を上げ、お寺の人たちに混じり準備の手伝いを始めた。法具を片付け、豆やお菓子の入った枡をひな壇に並べている。 小学生の男の子たちが、ワイワイ言いながら前のほうに乗り出してきた。 「いいんだよ。前の方はかえってお菓子が飛んでこねえから。少し下がれ。」 右近がニヤッと笑いながら私にスーパーの袋を手渡してきた。 「よ~し。今年は、いっぱい、拾うぞ!」 聖羅ちゃんも、やる気が満々だ。」
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