鬼は外

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「おめえ、いいな。ソフト部なんだから、かなりの確立でキャッチしてくれよ。」 「なによそれ、 つうか、拾ったお菓子は私のものだから、あんたには関係ないっつうの!」 「鬼は~~外~~~~! 福は~~~~内~~~~~!」 豆まきが始まると、歓声がドヨッとあがり、人々が一斉にかがんで、落ちたお菓子を拾い始めた。 次々に落ちてくる。 キャッチしようとするが、手の中から放射状に落ちてくる小さなお菓子をキャッチしていたのでは効率が悪いようだった。 かといって、拾おうと思うと、横から誰かの手が伸びる。 「茜、なんだよ、お前、もっと真剣にとれよ! もっと腰落とせ!」 「バカ!スカートはいてんだから、んなことできるか。小学生じゃあるまいし。」 「らしくね~こといってんじゃねえ。誰もおめえのパンツみやしねえから、拾え!」 「アホ!」 右近が小学生相手に、本気でみかんをとりあっている。 私はもう先輩が気になって、気もそぞろだ。 先輩は、枡を持って、お菓子を投げたり、みかんを投げたりしている。 一斉にみんながかがんだ瞬間、ぽつんと立っている私と、立ってみかんを投げている先輩の目が合った。 先輩の目がいたずらそうに輝く。 手の中のみかんを私に見せて合図している。 キャッチしろっていっているらしい。 先輩がオーバースローでみかんを振りかざした。 先輩の動きがスローモーションのように見える。 もちろん手加減はしてあったはずだし、みかんはコマ送りを見るように私にはゆっくり見えていた。 なのに、体が動かなかった。 指先をはじいたみかんは、本堂の後方に飛んでいき、そのまま勢いよくころころと転がって、なんと、入り口の障子戸の一番下の四角を付きぬいて、玄関の暗がりに消えていった。 息を呑んだ。 たぶんお正月に張り替えたばかりであろう真っ白な障子に、大きな穴が。 「ああああ、ど、どうしよう」 思わず手で口をおおいながら、私は先輩と見つめあった。 先輩も枡を持ったまま驚いて呆然としたように立っている。 周囲では、相変わらず豆まきの喧騒が繰り広げられていたけれど、立ち尽くしたままの先輩と私は、そこだけ時間が止まったみたいにみつめあっていた。 それから、二人同時に、 「プッ!」 と噴き出した。
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