鬼は外

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「アハハハハ」 笑いが止まらない。 先輩と、二人だけ、離れた場所で、お互いの気持ちが分かるほどに、お腹を抱えて笑った。 豆まきが終わり、楽しかった雰囲気を確かめるかのように、笑い語りながら、みんな玄関に向かっていった。 「気をつけてお帰りくださいね。」 住職さん以下、お寺の人たちが、声を掛けながら見送っていたが、私は気が気ではなかった。 あやまらなければならない。 「おい、茜帰らねえのかよ。」 「お姉ちゃんは、まだ帰りたくないんだよねえ。」 「ああ?」 右近を無視して、謝るタイミングをみはからっていると、 住職の奥様らしい人が障子戸の破れに気が付いてしまったようだった。 「あら、穴が開いているわ!」 「すみません、私なんです!」 「それ、自分だから!」 先輩と私が同時に進み出て、お互いに顔を見合わせた。 「ごめん、さっき、強すぎた。」 「ううん、私こそ、どんくさくてごめんなさい。」 そんな私たちを、奥様はかわるがわる見て、 「あらあら、そうだったの。いいのよ。直しておくから。」 とニッコリ笑っている。 「いや、直します。」 「あ、私も手伝います。」 と慌てる私たちに、 「そんな気にしなくていいのよ。別に。」 と奥様はなおも言っていたけれど、 突然横から、副住職の尼僧さんが声を掛けてきた。 「やってもらえばいいじゃない。二人がやりたいって言ってるんだから。」 厳しい目つきに、一瞬ヒヤッとする。 「でも、多聞、もう遅いから、明日にして。明日、休みでしょ?改めて来てくれる?」 「うん、わかった。おばさん、明日おれら朝また来るから。」 「あ、大丈夫?勝手に俺らなんて言っちゃったけど、明日来れる?」 先輩が私に向かって言う。 「あ、来れます。全然来れ ます。絶対来れますから。」 と私は慌てて答えていた。 帰り際、 「おめえ、ほんととろくせ~のな。」 と言う右近に、 「如月、俺たちのこと、あんまり攻めないでくれよ。」 と先輩がかばってくれた。 「俺も明日一緒に来てやりてえけれどよ、部活があっからな。先輩、こいつのこと頼みます。」 「おう、右近もテニス部頼んだぜ。」 帰り道、ハイテンションになるのを抑えることが出来なかった。 お寺には申し訳ないことをしちゃったけれど、これはとんでもない福が私にもたらされたということだ。 明日、先輩とまた会えるのだ。
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