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そこは死の世界。
空は暗く、大地には渇いた砂しかない。
砂漠…
昼間でさえ陽の当たらない極寒の砂漠。
この地に生きられる命など無い。
命の源である陽の光と水でさえ、そこにはなかった。
何一つ存在を許されないこの地に
唯一つ存在しているものがあった
真っ白な雪。
『何故そこに生まれたのか解らない…自分が生まれた理由も、生きるための理由も。
色のない白い記憶だけがその存在のすべてであり、ただ一つそこに存在を許される理由だった。』
雪は空を舞い、ゆっくりと死の大地に降りてくる。
ゆっくりと…
地に落ち溶けてゆく短い自らの運命を拒むように…ゆっくりと。
『風』に吹かれて空に浮くことで、自分の存在を消さないでいられる。
風さえあれば自由に生きられる。
空が…この広くて自由な空が、自分の居場所であるかのように。
…消えたくない…
広すぎる空に降る一粒の雪は、風に吹かれながら必死で在り続けようとした。
…誰か…
空虚という孤独の中で。
…助けて…
独り砂漠に舞い降りる雪は…『風』を求めた。
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