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〈一〉
二00九年、八月某日――
その日、一つの街が死んだ。
例えでも比喩でもなく、文字通り、死んだ。
車という車が炎上し、
民家という民家が瓦解し、
ビルというビルが倒壊し、
人という人が殺戮された。
街は街としての機能を失い、営みを失い、意味を失った。根こそぎ死滅させられた。
三日三晩かけて行われたその大虐殺とも言うべき破壊行為。それが一人の、それも年端もいかないような少女によって行われたのだ。
「……」
あらゆる生命の終わった空間。
辺り一面には耐え難いほどの死臭が漂い、原形を留めていない死体が転がっている。人が踏み入ることの出来る領域を超えた、限界の世界。
そんな中、金色の髪を靡かせながら、少女は佇んでいた。
何をするでもなく、堆く積まれた死体の山の上に座している。
少女は何気なく空を見上げる。
そこには一片も欠くことのない満天の月があって、まるで血まみれの少女を照らしているようだった。
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