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一斉掃射。炸裂。炸裂。炸裂――。
黒服の一団が装備するマシンガンは、まるで空間ごと消し飛ばすかのような勢いで弾を撃ち出した。
少女が駆ける。
力強く踏み出した一歩目で地面は波打つように収束、二歩目で急速に拡散しながらコンクリートを巻き上げた。爆発的な加速で視界から消える。
そうして容赦なく降り注ぐ弾丸は虚空を衝く。何もかもが次々とはぜていく中でも、少女はまるで意に介さず演舞する。
踊るようにかわす。
犯すように笑う。
その嵐の中にあってもなお、少女の哄笑は誰の耳にも届いた。
死に際と隣り合わせ、弾丸と戯れているのだ。
「――もういい」
ピタリ、と唐突にそれは終わった。銃弾の飛来も炸裂音もやむ。
合わせて少女も止まった。舞う粉塵から現れたその姿はもちろん無傷だ。
「えー、もう終わり?」
ひどくつまらなそうに呟く。先ほどとは打って変わって、無表情を顔に貼りつけている。
「はじめまして、というべきかな。 巡井天乃(メグルイアマノ)」
一列に並んだ男達の中の一人が前に出る。寒気を覚えるほどに白く透き通った肌に、細く切れ長の目。ウェーブのかかった長い黒髪は全て後ろへと流されている。
少女は伯爵か、さもなくば吸血鬼だろうと思った。ここまで冷酷なイメージを与えられる顔は、およそ本の中でしか見たことがなかったからだ。
恐怖を知らぬ少女が僅かに戦慄する。
けれどその感覚の名を巡井天乃はまだ知らない。
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