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「おい。金出せ」
話の冒頭などでよく使われている、駆け抜ける一陣の風でさえうっとおしく感じてしまう程のダラダラダラと生汗が止まらない熱帯夜。
1時間前に着替えた上着が既に洗濯籠に放り込まないといけないレベルに達している。
無駄に蝉の大合唱も合わさって俺の不快指数は極限値を突き抜けていた。俺だって妹より威厳が高く、お風呂の洗剤が切れていなければこんな夜遅くに出掛けたりはしない。
そんな7月の某日。
「……は?」
原付きバイクに跨がり、木刀を肩に乗せ、うちの制服を着た、闇と一緒に染まりそうな程美しく綺麗な黒髪ロングのそれと対称的な色白の滑らかな肌を持った美少女に――男ではなく女に――恐喝をされた。
「聞こえなかったか?金出せっつってんだよ」
近頃十分な栄養が身体に行き届いてないせいか急に身に覚えのない目眩が……。
「うるせーよ。馬鈴薯でもかじってろ」
なんて言えたらもっと違う人生を歩んでいたに違いない。つくづく後悔する。
「……貴女の値段おいくらでしょうか?」
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