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 確かに念ずれば花開くとは古来から伝わっているが、一般の人間から見れば、それは、夢なのだから夢と呼ぶのであり、しかも、いじいじしている武生の事、友の言葉が神の御心ならば、彼即ち悪鬼の情念である。  しかし、問題は其処ではない。知人は、苦心を原動力にして、事実、夢を現実にしたのだ。それは武生に取って衝撃であり、人生賛美の歌のように、彼の心に響いた。 「実は」、武生は、その知人と初詣に行った帰り、とあるファミリーレストランで心中を告白した。実は、前々から小説を書いている。一作書いて、出版社に出してみたいのだが、と、そう言った旨の事。彼は、一言「やってみた方がいいよ」、と言う。ただ、「なあなあは駄目だ。お前は、今は仕事もしてないし、それでは奥さんも辛いだろう。おい、目標が必要だぜ。ああ、そうだ、端的に言えば、期限みたいなもんだ。ああ、そうだ」、との事である。  武生は、それならばと、三週間後の自らの誕生日、それまでに形にしてみせる、と意気込んだのであった。  彼はそこまで思い出すと、眼前のカフェ・オレを一息で飲み、そして、一目散に書斎に戻る。さっきまでの胸中押し問答は、雲散霧消、思いが漲る。 「信じなければならない」  自分を。虚勢に見えなくもない。
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