髪どめ

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食べ終えたカレーを台所に持っていき皿を置く。 「水無いのか?」 「冷蔵庫に入ってるから勝手に取ってくれ」 冷蔵庫を開けようとして気付く。 冷蔵庫の扉に写真が張ってあるのだ。 腰まで長い髪を風になびかせる女とその隣に立っている少し…というかかなり肥満気味な男。 両方ともに幸せそうに笑っていた。 愛子と…元恋人の男か? 男の体型は葉山と正反対だ。 そして俺は思う。 葉山も葉山だが…愛子も愛子だ。 今の恋人の目につくような所に前の恋人との思い出を飾る。 まあ、普通は嫌だろう… 水をコップ一杯飲みリビングに戻る。 「ごちそうさま」 「……半分残ってんぞ?」 「お腹がふくれたんだ。いらない。」 「そんなんだからがりがりなんじゃねえの?」 少し笑ってやると男は大きな声で怒鳴った。 「もう戻りたくないんだよ!!! ほっといてくれ!!!」 突然の台詞にごめん、とも言えず固まる俺。 戻りたくない……? それはどういう意味だ? 「…戻りたくないって、何にだよ」 葉山は冷蔵庫を指さす。 冷蔵庫を見るが何も変わった様子はない。 「何だよ、言えよ」 「………あの写真のようには、もうなりたくないんだ………!!!」 え…? 「あ……!」 そうか、分かったぞ… 「お前もしかして…あの写真…」 「ああ。あれは僕だ」 あの写真の肥満体型の男は……葉山本人だ。 …なぜそんなに戻りたがらないんだ? 「愛子の元恋人は……僕だ」 は? 俺の頭は真っ白になる。 元恋人は、葉山だと? 愛子の今の恋人は葉山じゃないのか? 葉山は元恋人が愛子にあげた髪どめが気に食わないって…… 矛盾だらけじゃないか。 「…2年前まであの通り僕はかなり太っていた。 愛子に釣り合いたい。 そう思って僕が痩せるまで待ってくれ、と言って別れたんだ。 愛子は僕がそうしたいなら、と言って待っててくれた… そして僕はこの通り痩せた。そしてまた愛子と同棲するようになって…今に至る。」 俺は正直 "………馬鹿か?" そう思った。 「太ってる時の自分はもう別の人間ってわけか?」
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