何だ?

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薄く母親の啜り泣く声が聞こえる部屋に戻る。 俺は仮説をたてた。 今の俺の状況についてだ。 まず、俺は何らかの衝撃によりあの瞬間"人間関係"の記憶を無くした。 人や自分のことだけを、忘れた。 きっとそうだ。 そうに決まってる。 なら俺はどうしたらいいか? 今からの人生を楽しく生きていく。 見たところ俺は中学生だ。 何度でもやり直せる。うん。 『山田進』を受け入れよう。 「えっ……桃が…すぐ行きます!!」 そんなことを考えてると母親の声が聞こえた。 「どうしたんだ?」 「桃が……!桃がバイクで事故に……!! 今から病院に行くわ!!」 混乱してるな…… 金髪が事故にあったのか。 少しいい気味だと思う自分を抑えて言った。 「俺も、行く」 ピッ…ピッ… ベッドに横たわる金髪。 ああ、こいつは大人しくしていれば美人なのか。 「桃…桃…!!」 金髪の手を握り母親は懇願するように小さな声で言っていた。 金髪の目が、開かないのだ。 ふう、とため息を吐き慰めようと母親を見る。 「……」 母親は、泣いていた。 そうか 親ってこんなもんなのか 子供に何言われても 子供にどんなに嫌われても 愛してんだな 愛してるから 泣くんだな 言葉が、出なかった。 その時。 「…桃!!!!」 金髪の目が…ゆっくりと開いた。 金髪は握られている自分の左手を見つけると眉間にしわを寄せて振り払った。 そして俺と母親の反対方向を向く。 さすがにムカついた俺は口を開いた。 「おい、金ぱ「馬鹿っ!!」 パシンッ!! 母親が……金髪の顔をはたいた。 そして目に涙を浮かべ母親は言う。 「馬鹿だけど生きててよかった……」 そして金髪を抱きしめた。 金髪は驚いた顔をしたがすぐに諦めたような顔になり、母親に体を預けぐったりとする。 「ごめん」 酸素マスク越しにしっかり聞こえた金髪の声。 母親はその声に顔を上げる。 「お母さん……」 金髪は顔を真っ赤にして、泣いていた。 声を漏らさずに、目を思いきりつぶって 泣いていた。 厚い化粧が落ちて顔がぐちゃぐちゃなのに その顔をもっとぐちゃぐちゃにして泣いていた。 そして俺は病院を出る。
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