髪どめ

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今の状況からはっきりと言えること。 まず俺は"女"になってしまったこと。 目の前に居る男に好意を抱かれているということ。 次に今の状況から疑問に思うこと。 "前の俺"はどうなった? ゼッケンが山田の俺は? 金髪と血が繋がっていた俺は? "前の俺"の、周りの奴らは? まあ、簡単に言うと『何がどうなっているんだ』が今の俺の心境を1番的確に表してくれると思う。 さて、とりあえず落ち着こう。 そして目の前の男に知りたいことを聞こう。 「なあ、愛子ってお前の何だ?」 ぽかんと口を開ける男。 まあ、普通の反応だろう。 「な…何を言ってるんだよ。 愛子、君は僕の恋人だろう?」 なるほど。予想はしてたけど… 今の俺の発言はこいつにとっては多分今まで普通に接してきた恋人がいきなり意味不明なことを言ったようなもんか。 「悪いけど、俺は男だ。」 ぽかんとした顔に疑いのような色が出る。 「愛子、どうしたんだ…?意味がわからないよ」 戸惑う男に言う。 「大丈夫だ、俺も意味わかんねえから。 いいか。今からもっと意味わかんねえこと言うぞ。 でも全部本当だから信じろ。いいな?」 男はよくわからないような表情のままこくこくと頷いた。 「まず俺は男だ。この体の持ち主の愛子とかいう奴の"意識"自体に乗り移ったと考えていいと思う。 でも俺は乗り移る気も、乗り移る理由も無い。俺はお前の敵じゃない。 もう1つ、俺は正直自分が誰なのか分かっていない。 俺は今に至るまでに突然山田っていう男としてあるマンションの廊下に立っていた。 その時俺は山田として生きた記憶も何も記憶は無かった。 俺はただの記憶喪失者なんだと思っていた。でも今の状況からして違うかもしれない。 俺はもしかしたら意識だけの存在でいろんな体を転々とする幽霊みたいな奴かもしれない。 最後に、愛子もお前のことも全く知らない。 俺が"愛子"の意識に乗り移ったとして今"愛子"の意識がどうなっているのかは分からない。 この体で眠っているのか、または違う場所に飛ばされているのか。 あと俺がもう1つ予想しているのは入れ代わったということ。 前の俺と愛子の意識が入れ代わったという可能性だ。 この場合なぜ入れ代わったのかは分からない。 ちなみにこの予想が当たったとき俺はただの記憶喪失者かもしれないという仮説は少し信用できる。 最後に俺が断言できる俺の情報は無いに等しいことだ」
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