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秋も下旬に近付きもうすぐ冬が訪れるという頃、普段は静閑である郊外が早朝だというのに騒がしくなっていた。
通りと面した側には野次馬が集まり、それをどうにか散らそうと制服警官達が躍起(やっき)になっている。
とそこに、シルバーのセダンが止まった。
それからは一人のスーツ姿の男、年の頃は三十前後といった人物が降り立ち、彼は真っ直ぐに人だかりへと向かうと、人々を押しのけ、何の戸惑いもなく、路地への道を隔てていた黄色のテープを潜(くぐ)る。
「グレッチェル警視、お疲れ様です。」
部外者が入らないようテープ脇に陣取っていた警官にそう敬礼をされると、彼、アルテュール・グレッチェルは警官に会釈(えしゃく)を返した。
警官が忙(せわ)しなく動き回る路地を目を細めて眺めると、グレッチェルは一つ息を吐いた。
前方で複数のシャッター音がした。
こんな早朝から仕事に駆り出されたことで、彼の機嫌は良くはない。
グレッチェルは掛けていた眼鏡を押し上げると、この騒ぎの渦中にある、奥に置かれたシートへと向かう。
「どのような具合ですか?」
グレッチェルは、彼より早くシートの前にうずくまっていた背に呼びかけた。
その呼びかけに若い青年の顔が振り返る。
彼はグレッチェルのことを認めると、どうにも情けない顔をした。
「どうもこうもないですよ…。」
その言葉を聞くとグレッチェルは青年の横にしゃがみ込み、シートの端をぱさりと捲(めく)った。
「そんなっ…いきなり止めて下さいよ!!」
悲鳴に近い声を上げた青年を余所に、グレッチェルはシートの下に佇(たたず)んでいたそれをじっと見つめる。
そこに横たわっていたのは一人の男だった。
青白い顔を隠すよう赤茶を塗り、唇を紫に変色させた男からは生気は感じられず、もう既に男が息をしていないことは明白だ。
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