1章 1∥ initium

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  「何か判ったことは?」 「はい、まだあまりありませんが。」 そう断っておくと、レイモンドは早速事件の報告を始めた。 「まず、死亡推定時刻ですが、遺体の腐敗の進行状況からいって、死後四日は経過しています。  詳しい時間まで把握するのは難しいでしょう。  普段人通りのない場所なので、発見が遅れたのだと思われます。」 その言葉に、グレッチェルは無言で頷いた。 確かに、こんなに細く薄暗くては、普段人通りは無いのだろう。 その上、近頃物騒な事件が多いことを考えれば、それに拍車が掛かったとしても、何ら不思議ではない。 「外傷は額に見られる、銃器に因る射創以外特に見当たりませんでした。  額の貫通射創が致命傷だと思われます。  恐らく即死です。」 「そうですか…。」 グレッチェルがレイモンドの言葉に頷くと、大人しくメモを取っていた青年が口を挟む。 「被害者の身元は?」 「それはまだ判っていませんが、三十から四十歳の男性。  遺体の損傷はそれ程激しくないので、詳しいことが分かるのも時間の問題かと。」 「それについては時期に判ると思いますよ。」 いきなりに口を挟んだグレッチェルの言葉に、二人は全く同じような表情を浮かべて、彼の方を向く。 「どういう意味ですか?」 「はっきりとは言い切れませんが、被害者の男性は、恐らく私が担当している別件の容疑者ですね。  あの顔には見覚えがあります。」 グレッチェルがそう断言すると、青年は訝しげに顔を歪めた。 「確かなんですか?」 「彼だと断言は出来ませんが、見覚えがある顔なのは確かですね。  記憶力には自信がありますから。」 それだけ言うと、グレッチェルは再びレイモンドへと向き直った。  
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