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「何か判ったことは?」
「はい、まだあまりありませんが。」
そう断っておくと、レイモンドは早速事件の報告を始めた。
「まず、死亡推定時刻ですが、遺体の腐敗の進行状況からいって、死後四日は経過しています。
詳しい時間まで把握するのは難しいでしょう。
普段人通りのない場所なので、発見が遅れたのだと思われます。」
その言葉に、グレッチェルは無言で頷いた。
確かに、こんなに細く薄暗くては、普段人通りは無いのだろう。
その上、近頃物騒な事件が多いことを考えれば、それに拍車が掛かったとしても、何ら不思議ではない。
「外傷は額に見られる、銃器に因る射創以外特に見当たりませんでした。
額の貫通射創が致命傷だと思われます。
恐らく即死です。」
「そうですか…。」
グレッチェルがレイモンドの言葉に頷くと、大人しくメモを取っていた青年が口を挟む。
「被害者の身元は?」
「それはまだ判っていませんが、三十から四十歳の男性。
遺体の損傷はそれ程激しくないので、詳しいことが分かるのも時間の問題かと。」
「それについては時期に判ると思いますよ。」
いきなりに口を挟んだグレッチェルの言葉に、二人は全く同じような表情を浮かべて、彼の方を向く。
「どういう意味ですか?」
「はっきりとは言い切れませんが、被害者の男性は、恐らく私が担当している別件の容疑者ですね。
あの顔には見覚えがあります。」
グレッチェルがそう断言すると、青年は訝しげに顔を歪めた。
「確かなんですか?」
「彼だと断言は出来ませんが、見覚えがある顔なのは確かですね。
記憶力には自信がありますから。」
それだけ言うと、グレッチェルは再びレイモンドへと向き直った。
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