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「あーぁ……」
4月某日のとある晴れた日の朝8時頃。
1人の女子高生が校門の前の桜の花を見上げてため息をついていた。
少女がため息をつくのも無理はない。
見上げる桜の木の枝には、あまり花が見あたらない。桜の花は大分散ってしまって、道路が花びらで薄紅に染まっている。
少女――三谷友紀……つまり、私――は花のない桜の木を見て一言ぽつりと、
「今日は入学式なのに勿体無いなぁ」
と呟いた。
今日は桜の花がよく似合うめでたい日なのに……桜の花が、あまり見あたらないのは確かに惜しい気持ちになる。
今日のメインイベントに桜の花がないなんて、味気ない。
「勿体無いよな……あと1週間くらい早かったら桜が満開だったのになー……」
はぁ、と再びため息をついてから、私は教室に向かった。
残り少なくなった花びらが、また1枚ひらりと舞った。
・・・・・・・・・・
今日は私が通う高校の入学式である。
みんながどこか浮き足立っていて騒がしい。
あちこちで「いすの数は大丈夫か」とか「受付誰がするんだ」なんて叫び声が聞こえる。
「……だから早めに用意しとけばよかったんだよ、執行部」と、ボソッと呟いた。まぁ誰も私のことなんか見てはいない。
まぁいいや……と窓辺でぼんやりしていたら、友達に腕を掴まれた。
「受付をしにいくよ!!」
……だそうだ。
他人事のように「はぁい」と返事をして、私は友達に手を引かれるがままに玄関へと向かった。
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