931人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
9時頃。
私は、玄関前の受付席に友達と2人で座っていた。
今日は私達に後輩ができる日だから、気合いを入れて仕事をしなければ。
と、さっきまでのぼんやりとした雰囲気はどこに行ったのか背筋をピンと伸ばして受付のいすに座っていた。
ふと気がつくと、真新しい学生服に身を包んだ少年が、ぼんやりと桜の木を見上げていた。
まだ眠たい、と言いたげな少年は、くぁと欠伸をした。
「春眠暁を覚えず、ってところかな?」
私はクスリと笑ってから少年の観察を始めた。
受付にはまだ誰も来ていなくて暇だったのだ。
欠伸少年は一度伸びをして、再び桜の花をみていた。
少し長めの髪が風に揺れている。風に吹かれた桜の花びらが少年を包む。
幻想的で綺麗な姿。でもやっぱり、桜の花が少ない。
あの少年も今朝の私みたいに残念に思いながら桜を見ているのかな?
今日はせっかくの入学式だっていうのに……本当に残念だ。
「……可哀想だな、新入生」
そう呟いていたら、少年が受付に向かってやってきた。どうやらあの子はうちの高校の新入生らしい。
無言で歩いてきて、私の目の前で止まる幻想少年クン。
……隣に座る友達が私をつつく。
「……あっ……御入学おめでとうございますっ」
「……どもです」
少年に見とれていたせいか、私の仕事を忘れていた。
隣で友達が笑っている。
人の失敗を笑っちゃだめなんだぞ。
最初のコメントを投稿しよう!