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「私だ。」
「あ?」
「この木は私なんだ。」
桜は、己と主張する木の幹に銀雪のような白い掌を乗せた。
「どういう事か説明しろ。」
正也の乱暴な問いに桜は頷いて、語り始めた。
「実はある人間から、ある品を言葉と共に託されたのじゃ。」
「ある品?」
「ああ…今言う言葉に当てはまる人間に渡して欲しいと言って、"枯れてしまったんじゃ"。」
彼女の言う<枯れてしまった>は恐らく人間で言う、死を表しているのであろう。
「その言葉に当てはまったのが…。」
「そう主じゃ、名前も同じ箇所もあったし、何より顔がよく似ているから確信したんじゃ。」
桜は嬉しそうに笑いながら、そう言った。
「多分、俺じゃないと思う。」
「なんでじゃ?」
正也は困ったように頭を掻いて、きょとんとする桜の推測を否定した。
「決めつけられるの嫌いなんだよ俺は、証拠を見せろ。」
率直で鋭い視線を桜に送った。
「いずれ分かる。」
桜がそう言った瞬間。
風が吹き、葉と葉の擦り合う音を奏で桜や正也の黒髪を揺らした。
「あぁ……私はもう駄目だ。」
男の弱々しい声が不意に聞こえた。
その男は腹の辺りに血が滲んだ黒い陣羽織を着て、<桜>の幹に寄りかかっている。
俯いているので顔は確認できない。
正也は「まさか」と思い、その男を凝視した。
桜は後ろに下がって、彼らの様子を傍観する事に決めた。
なぜなら、彼女はこの事を知っているからである。
彼が正也の先祖だと。
そして…一つ――
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