遺言

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この男がもうすぐ死ぬからである。 といっても、銃弾や自刃(切腹)が死因ではない。 答えはいずれ明かす。 「……お前いつからいたん…だ?」 男は昔の桜に向かって問い掛けた。 (……!!) 正也はそれを聞いた瞬間男の目線の方へ向ける。 瞳に映っていたのは、まだ十代そこそこの桜は陽のように柔らかく微笑み「ずっとここにいた」と答えた。 「そうだ……いきなりで悪いが桜の化身さんよ、コイツを私の……子孫に渡して欲しい」 男は懐を探り、手に取ったのは金属部分が一部剥げている煙管。 「どうして……家族に渡さないのじゃ?」 桜は首を傾げて、男に問い、男はこう答えた。 「私を思い出して寂しい思いをさせたくないから……だ。」 「人間というのは、読めぬ生き物じゃな。」 桜はそう言いながら煙管をそっと握り、袖の中に煙管を入れた。 「……確かに……な。」 男は苦笑いをして、弱々しい声で言う。 「貴様の名は?」 桜はふわりと宙に浮いて桜の太い枝に座って問う。 名前が分からないと、本当に子孫かどうか確かめられない。 「稲橋……正彦だ。」 男は正也と同じ瞳を凛と輝かせてそう名乗った。 それから二人は暫し雑談をする。言でそれを眺めていた正也は、見るのが辛くなり空を見上げていた。 ドブの色のような分厚い雲が広がる空だ。 二人の会話はまだ続く。 「分かった……貴様と似て、名も似た人間に渡せば良いんじゃな。」 桜は悲しそうに、血飛沫舞う風景を眺めながら彼の申し出を承諾した。 「あぁ……よか………。」 正彦はそれを聞いて安堵したと同時に眠るように息を引き取った。 死因は横腹に撃ち込まれた銃弾による出血多量。 正彦の血の気ない白い肌は、目の前に倒れた侍の赤黒い返り血と映えた。 「正彦さん!」 正也はそう言って駆け寄り屍を飛び越えて、彼に触ろうとするが。
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