遺言

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眼前に広がっていたのは元の見慣れた景色だった。 正也は膝を付き呆然とする。 激動の風景を見たせいなのか、しばらく放心状態に陥っていた。 「これが証拠だ…、酷だがこれが事実だ。」 桜は哀しそうな瞳で彼を宥めようとするが効果は全くない。 風が通りすぎる音。 鳥達の囁くような唄。 遠くから排気ガスを遠慮なく撒き散らす車の音。 土手には音しか広がっていなかった。 「あ、これが例の煙管じゃ…。」 桜は口を開いて、正也に煙管を渡した。 さらに年期の入った煙管はますます金属部分が剥げている。 「あぁ……大事にする。」 正也は悲しそうに目を細め。 死に際で託した正彦の気持ちを無駄にしないよう、ぎゅっと煙管を強く掴んだ。 強い風が正也の間を通りすぎた、桜の花びらは粉雪の如くふわりと風に遊ばれて舞い散る。 「桜……ありがと…」 屍が転がる風景はショッキングだったが、先祖に会わせてくれた桜に礼を言うとするが、言葉が続かなかった。 彼女の姿はどこにも見当たらない。 さらに彼女である木も生えていない。 いや生えているのではない、痛々しい焦げ痕がある切り株だけが生えていた。 恐らく<彼女>は運悪く雷に直撃し、燃え朽ちてしまったのであろう。 「……帰ろう。」 彼は学生ズボンのポケットの落とさぬよう奥深くに煙管を入れ、そう呟くと家路へと向かった。
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