1ー夢カラノ喚ビ声

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「―――ぃ、……おい!」 ――誰かが呼ぶ声がする。 誰だろう。酷く意識が朦朧としていて、網膜に直接焼き付くような灯りが眩しい。 「おい!円香!これ何本だ!三本って言わねえと張り倒すぞ!」 「―――ぇ」 視覚に入り込む光と一緒に、激しく肩を揺さぶられる感覚で、徐々に意識が戻り始める。 目の前には、今にも殴りかかってきそうな形相をした女の人。 「……ナギさん?」 「誰がアタシの名前答えろっつった? …まぁいい、アタシが分かるンなら頭の中はいつも通りってことだな」 「…え?」 ポカン と間の抜けた顔で同じアパートの住人を眺める。 その瞬間、アパートで一番 気の短いその女性のチョップが頭頂に襲いかかった。 「ふざけてんじゃねぇぞ! あんな馬鹿でけぇ悲鳴上げやがって、テメェはアタシを眠らせねえ気か!」 「ご、ごめんなさい!本当に、ごめんなさい!」 必死に頭を下げる円香に、ナギが肩透かししたかのようにため息をつく。 ナギは怒っているというより、円香に何かあったのかと焦っていたらしい。 ――申し訳ないと思う反面、隠しきれないナギの優しさが、ほんの少しだけ嬉しかった。 パタンと、誰かが部屋から出ていく音がした。 「あの…ナギさん。今の人は…?」 「イツキの姉御だろ。気づかなかったのかお前?」 「…あ」 そうだった。ナギが気づいたのだから、他の住人達が気づかない筈がない。 「別に良いよ。あの人は無事ならそれで良いって顔してるし…マリの姉御は気づきもしねえで寝てやがる。ホントに図太い先輩達だぜ」 「…ごめんなさい」 「謝る暇あんならさっさと寝ちまえ。余計なこと考えるからくだらねえ夢なんか見るんだ」 夢、と言われて先に見た光景を思い出す。 ――アレは夢だったのだろうか。 今思えば、今までの光景がはっきりしない。思い出そうとしても、霞がかかったように頭の中がボヤけている。 「もう呼ぶんじゃねえぞ。コッチだって暇じゃねえんだ」 言い捨てながら、ナギは ピシャリと窓を閉め、部屋を出ていった。
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