53人が本棚に入れています
本棚に追加
――朝からナギさんは不機嫌でした。
原因はといえば、結局あの後 一睡も出来なかった私が、目の下にくまを作ってきたから。
「たかだかうなされたくらいで寝れなくなるとか、ホント ガキだなお前は」
ガコンガコンと、キッチンでフライパンを振り回す音がする。人にだせるようなきちんとした料理ができるのは、このアパートではナギさんだけだ。
「…私、もう大学生…」
「カレッジだろうがスクールだろうがガキはガキだ。勉強すんのが仕事って自覚ねぇなら大学なんざ辞めちまえ」
「……」
言葉が無い。
朝早くから仕事に行って日付が変わるまで帰ってこないようなキャリアウーマンである彼女に言われたら、返す言葉なんてありはしなかった。
「ナギ、どうせお前は使える部下が欲しいだけなんだろ?
」
「ナギちゃんご飯まだ?」
「二人のはパンがあるでしょうが。勝手に卵でも肉でも挟んで食え」
イツキさんとマリさんがたしなめる。
イツキさんとマリさんは大学時代の同期で、後輩であったナギさんは二人には頭が上がらないらしい。
が、だからといって大人しく媚びるような軟弱さを持ち合わせてるナギさんではなかった。
そんな強さが、今の私には羨ましかった。
「ホレ、出来たぞ円香。さっさと食って学校行ってこい」
目の前によく熱された炒飯、とみせかけてそこに並々とスープが注がれた謎料理が置かれた。
「おいナギ、なんだこの差は。お前私に一斤百円の安物を食わせるのか」
「ナギちゃん贔屓、ずるい」
「黙れよ変人。文句あるならマックでも何でも食え」
言い争いにもならない憎まれ口を叩きながら、スーツを羽織ったナギさんは足早に部屋から出ていった。
「…あの、食べますか?
私今日は食欲ありませんから」
「駄目、きちんと食べなさい。ナギちゃんに悪いわよ?」
「…え?」
「アイツのことだ。今のお前でも食えるように一手間かけたんだろうよ。
本当に、アイツも素直じゃないな」
「…本当にごめんなさい。私が昨日うなされたりなんかしなきゃ…」
「なんでそういちいち謝るんだ?この先そんなじゃ身がもたないぞ。
迷惑かけたのが辛いのなら、その先これからどうするのかを考えなさい。そうやってウダついてるよりはずっとマシだ」
とっくに朝食を済ませたイツキさんは、面倒そうに煙草の火を吹かしていた。
最初のコメントを投稿しよう!