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てけり、りーー
音は止まない。
部屋を飛び出して、迷路のような道を走り回っても、その音は私の耳にすがるように付いてくる。
てけり、りーー
何がどうなってるのかも分からない。
ここが何階で、私は今どこを走っているのかも分からない。
頭が働かず、ただ自分の荒々しい吐息の音しか出てこない。
テ、ケリ、リーー
一歩だけ、音が近づいた気がする。
ゾクリ、息が詰まりまとわりつく悪寒が激しさを増す。
反響しているようなその声は、まるで何かを探しているかのよう。
「…え?」
可笑しな感覚。
私は今 何を 考えた。
私は今 確かに
先から 耳につく 気味の悪い 悪音を
…何かが喚ぶ声だと、
はっきりと、確信をもって…
てけり、りーーーー
一層 早く 激しく
建物を振動させ、闇夜に響き渡る喚び声。
何もかもを知りもせず、考える余裕もなく、ただ出口を求めて駆けずり回った。
帰らなければ ならない。
この建物を出て、家に帰って、
眠りから覚めれば、またいつもの日常に、
「…キリト、先生?」
いつの間にか通路の奥にいた人影が、円香には彼の姿に見えた。
真っ直ぐ伸びた通路の奥。
照らす灯りは月の光だけのなか、
微かな光が彼の姿を影絵のように写し出し、そして……
……ズルリ
「…え」
影絵が、ずれる。
肩から腰へ、斜めに切れ目を入れたように、スルリ スルリと
……ゴトン
ゆっくりと倒れ込んだ半身、
同時に、ニンゲンでいうアタマにあたる部分がゴロゴロと外れて、転がって…
窓から射し込む光は、その姿をはっきりととらえた。
円香の目の前に転がった丸いのは確かに、彼女がさっきまでキリトとヨンデイタ オトコノヒトのモノで…
「……あ」
呆然と頭上を見上げる。
黒い。闇の中で蠢く黒いモノ
モゾ モゾと這いながら天井にいたそれは
思い出したかのように、
粘液を滴らせながら、
振り返るように、
内から白い瞳孔が
ギョロリ と コチラ を 視…
「い、いやぁあああああああああああああ!!!!!!」
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