1ー夢カラノ喚ビ声

17/25
前へ
/139ページ
次へ
ベシャリ と泥が這い落ちるような音に、見慣れた男性の生首が飲み込まれる。 天井から円香の目の前に落ちてきたその黒いアメーバみたいなモノの中から、ゴリゴリと咀嚼のような音が鳴る。 「…あ、あ…ぁ」 気がつけば円香は床に座り込んでいた。目の前で起こっていることにただ震えることしか出来ず、恐怖で涙を流すことさえ忘れてしまっていた。 ゴリゴリ ゴリゴリ 咀嚼音はキリト講師の躰にまで及ぶ。 掃き溜めのようなソレから黒い粘体が触手のように伸び、彼の残った躰を捕まえ…そして跡形もなくその内部へ取り込んでしまった。 ゴリゴリ ゴリゴリ 今になって理解する。 アレは、キリトを喰っているのだと。 アレにとって、キリトというニンゲンは唯の食い物でしかない。 ――ならば、今ここにいる私は…アレにとってなんなのか? 「――ぁ」 問いた瞬間、答えは出た。 目の前のソレ、キリトだったものを髪一本まで残らず喰い尽くしたソレの中で 眼球がゴロリ と向き直る。 はっきりと此方を見た瞬間、そのアメーバの一部が裂け、鋭い歯を見せるソレはまるで笑顔を浮かべる口元のような… 「あ…あぁ…あああぁ――ッ!!!」 振り返り、全てを振り切った。 沈黙を続けた口内から有らん限りの悲鳴と、硬直を続けた躰を破裂させるように跳ね上げ 地を蹴る。 背を向け逃げ出した者を、アレは次なる獲物と見定めるだろう。 どうやって追い付くのか、先までのように…自由に生み消しした口や眼のように、脚まで生やして追いかけるのだろうか。 考えたが、答えなんて出ない。 今はただ、壊れかけの機械のように無様に滑稽に、逃げ続けることしか出来ない。 「どうしよう…どうしよう…!! 死んじゃう、死んじゃうよ、沙夜ちゃん…!!」 手当たり次第に扉を開けながら、いつも一緒だった幼なじみを思い出す。 もう一度あの笑顔に会いたい。 またあの場所に戻りたい。 あんな平和な日常の中で…死ぬなんて、考えたこともないのに。 祖父の顔が頭によぎる。彼の死を体験してなお、死ぬなんて…ずっと遠くにあるものだと思っていた。 もう何個めかの扉を開ける。 「――!」 見慣れた階段が目の前に広がっている。 ここを降りてすぐの扉を開ければ…… 「…え?」 その左右の道、からズリズリと乾いた音が鳴り…やがてその音はあの発音に掻き消された…。 テケリ、リーーー!!
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加