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私が謎の組織に拉致されてから数日になる。 彼等がこんなしがない物書きにいったい何を求めているのか、私には到底 理解できない。 確かに、私の知人達との間には人目を憚るような怪しげな繋がりがあるが、それにしたって少々大袈裟ではなかろうか。 世界征服だかなんだか知らないが、そんな野望に妖術だの宇宙的恐怖なぞ不要だろうに。 私を閉じ込めてた牢が開き、黒装束の男達が私を連れ出す。 絶えず奇声を上げる彼等は、どうやら改造人間の類いらしい。そして彼等の中には、ヒトとしての原型すら留めていないモノもいるのだとか…。 『よく来てくれた、------くん』 大きな祭壇の下で、私は遂に彼等の筆頭と顔を合わせることになった。 鷲の紋章を背後に掲げながら仰ぎ立ち、頭に蛇を這わせ隻眼で見下ろす姿はもはや人間のものではなかった。 だが、と私は嘆息する。 確かに彼は恐るべき存在だ。事実 私は今や命の危機と言って過言ではない。 だが、私が今まで夢想し、書き連ねてきた異形達と比べて彼はなんと救いのある存在なのか。 何故なら彼は…ヒトなのだから。 『私達の最高傑作を作るために君の力を借りたいのだ。君の頭脳を我等に差し出してくれるなら、君を自由の身にしてあげよう』 どうやら彼は私の記憶の一部を奪い取るつもりらしい。結構だ。私こそこの悪夢のような記憶を消し去りたいと願って止まない。 長い廊下を連れられる。 幾重にもはだかる重厚な扉を抜け、私はその部屋にたどりついた。 『素晴らしいだろう。彼等には、今まで君が見てきた異形達の記憶が受け継がれるのだ』 そこに立ち並ぶ‘仮面’達を見たとき、今度こそ、私は驚愕する。 まるで蟲のような、哀しみとも怒りとも言えぬ形相… そこにある仮面は間違いなく、 --私が かつて、何処か彼方から届いたかのような悪夢を基に作り出した仮面に限りなく近しい姿をしていたのだから。 彼等は知っていたのだろうか。 あるいはこの一致はただの偶然なのだろうか。 だとしたらこれは…いっそ必然であってほしいほどの悪夢でしかない。 『さて、君には少し眠ってもらおう。なに、目が覚めた頃には君は自由の身だ』 私は驚愕の瞳で‘衝撃を与えるもの’の首領を見据える。 そしてその視界が、意識と共に薄れるなか、最後に彼が私の名を呼ぶのを聞いた。 『お別れだ、ゆっくり眠りたまえ。 --ハワード・P・ラヴクラフト君』
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