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扉の左右の回廊から、その異形は姿を見せた。
階段の上から見下ろしてなお鮮明に写るその姿に、先の記憶が閃光のように叩きつけられる。
植物の根っこのような胴に、足元から這い出る触手を含め、優に二メートルはある体幹。
背中からは羽根が伸び、頭部には五芒星の器官が花のように裂き開いている。
それは間違いなく、あの時キリト講師の研究室で見かけたモノ達だった。
「や、やぁあ…!!」
獲物を見つけたように、此方に上部の器官を向けたソレ達が一斉に鳴き狂う。
テケリ、リーーー!
テケリ、リーーー!
バタバタと触手を振るわせながら登り始めるソレ達を前に逃げ場はなく、元来た扉に向き直る。
てけり、りーー!
てけり、りーー!
開いた瞬間、目の前にソレはいた。
黒く蠢く粘液の塊、形を保ちながら絶えず流動しているソイツから眼球が生まれる。
「……ぁ」
意識が朧になり始める。
その中、不意に祖父のことが頭の中に生まれ始める。
いつも何処か遠いところを視ていた祖父。
出来の悪い家族に何も遺してくれなかった祖父。
…一体、彼は何を思って死んでいったのか。自らの死を前に、彼は何を感じたのか。
今、目の前とすぐ背後にいる…‘死’を前に、その答えが見つかった。
………何も、無い。
空虚な…はっきりとした伽藍洞
いつだってソレは私達が積み上げてきた生き方に頓着せずに現れて、
そして、私達は…
ただソレを、受ケ入レルことしかデキナイ…。
「…い……ゃ……!!」
てけり、りー!
ヌメリと胴に生暖かい感触、
テケリ、リーーー!
ギシ と足元に巻き付く蔓のような痛み、
「…いや」
‘死’に包まれて、私は…
「……嫌ぁ」
‘生’を求めて、
生きることしかしらないように…
今まで、どの瞬間よりも強く、生きようとして……
‘死’を否定した。
「い、嫌ぁぁぁぁあああ!!!!
誰か、誰か助けて!!!!私…まだ、死にたくない!!」
その叫びも、やがて今の円香の躰と同じく…虚空へと消えていっ……
――――――承知シタ
刹那、虚空からの声が、
‘彼’を喚び出す合図となった。
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